“36協定” 物流業界の2024年問題を正しく知る上で不可欠な知識

“36(サブロク)協定”も、聞き慣れない人の方が多いでしょう。物流業を営む会社の従業員なら、組合代表者や労務部などで働いているのであれば知っているはずです。


しかし、トラックドライバー、しかも組合代表者でもないとなれば、通常の業務にほとんど無縁のことばではないでしょうか。それでも、物流業界の2024年問題を正しく理解するためには、ある程度のことを知っておくことが推奨されます。


36(サブロク)協定

36協定?


“時間外労働・休日労働に関する協定”が、36協定の正式な名称です。名称が長いこともあり、「36協定」と一般的には呼ばれています。“36”は労働基準法第36条に、その規定があることによるものです。


労働基準法第32条では“1日につき8時間、1週につき合計40時間”という法定労働時間を定め、これらを超えて労働させてはならないとしています。40時間/週を超えた労働が時間外労働であり、時間外手当の支払いが生じます。


また、同法第35条では週に少なくとも1回の休日、または、4週間で少なくとも4日の休日を労働者に与えなければならないことが定められています。そして、これらの休日を法定休日と言います。


物流事業者に限らず全企業は、従業員と36協定を結ぶことで時間外労働や法定休日に労働をさせることができます。36協定の締結がないにもかかわらず時間外労働や法定休日に労働をさせてしまうと、6か月以下の懲役、または、30万円以下の罰金が会社側に科される可能性があります。

締結がない?


この36協定締結が行われていないのであれば、会社側の残業命令に従う必要はありません。


36協定の締結があるのかどうかを確認するには、36協定協定届のコピーを見せてもらうことを社長や上司に頼んでみてはいかがでしょうか。


見せてもらえなかったときには、36協定を周知させる義務が会社側にある(労働基準法第106条)ことを伝え、再度見せてもらうことをお願いしましょう。この義務に違反すると、会社側が30万円以下の罰金を科される可能性があります(労働基準法第120条)。


それでも見せてくれないのなら、36協定の周知義務について明記した書面を内容証明郵便で会社側に送りましょう。労働基準法第104条第1項では、労働基準関係法令に会社側が違反しているとき、労働基準監督署に申告できるとされています。申告を受けた労働基準監督署は、違反の有無を調査してくれます。


司法警察員である労働基準監督官は、悪質と判断した事業主を検察に送致することもあります。


手とペン

事業場の数だけ必要な36協定届出書


1企業が行う36協定の締結は、1つだけとは限りません。事業場の数だけ必要です。事業場とは具体的には、本社・支店・営業所などです。会社もある程度以上の規模になると、複数の事業場を所有しているものです。


東京営業所が締結した36協定は、横浜営業所で働く従業員には適用されない可能性が高いです。それぞれの事業場を管轄する労働基準監督署ごとに、36協定届出書を毎年欠かさず提出しなければならないことには、労使とも注意が必要です。


36協定届出書とは別に36協定の協定書があることも、知っておいた方がいいでしょう。どちらも、ほとんど同じものではあります。労使間で、36協定を締結するときに作成される書面が協定書。労働基準監督署に届け出るために作成されるのが、届出書です。


協定書については、労働者を代表する者の記名押印、または、署名により協定届とすることで、作成を不要とすることが可能です。なお、そうしたときには協定届のコピーを3年間、事業場内に保管しなければなりません。

36協定の締結をするのは誰?


“締結”という以上、2者間で行われるのはお分かりいただけるでしょう。36協定は、労使間で締結されます。


“労使間”という表現も、抽象的でしょうか。
この場合の使用者には、社長・工場長・取締役・部長・課長などの職場責任者や現場監督者が、具体的には当てはまります。なお、部長や課長などといった、管理職のすべてが当てはまるわけではありません。


仮にこれらの役職が与えられていても、会社から労務管理面などで一定以上の権限を与えられてはおらず、事業主のために動くわけではない人については使用者とはなり得ないのです。


“労使間”の“労”は労働者の代表のことで、多くの場合は労働者の過半数で構成された労働組合です。労働者は、正社員だけに限りません。パートやアルバイトも含めます。


もし、そういった組合がないのであれば、労働者の過半数を代表する人が、会社側と協定してもかまいません。その“労働者の過半数を代表する人”には、経営者と一体的立場にないことなど満たすべき条件があります。

特別条項が設けられた36協定?


36協定には、特別条項が設けられていない通常の36協定と特別条項が設けられた36協定があります。そして、それぞれは、内容も手続きも違います。


通常の36協定での上限基準では、例えば大雪や被災後の復旧時などのことを想定してはいません。これらの特別、かつ、臨時的な事情のあるときには、通常時には予想できないような突然の業務量増加が起こりえます。そういったときにも対応できるようにするべく、特別条項を設けるのです。


したがって、通常の36協定で定められた時間外労働の上限を超えた時間外労働時間数の上限/年などが、特別条項には記載されます。
また、通常の36協定と特別条項が設けられた36協定では、労働基準監督署に届け出るときの書面様式が異なります。前者の場合には様式9号が、後者の場合には様式第9号の2が使われます。


2024年4月1日以降は特別条項が設けられた36協定なら、トラックドライバーの960時間/年までの時間外労働も可能です。現在はこの上限基準がありません。


この日を境にして始まるこの規制の上限を超えてしまうと、6か月以下の懲役、または、30万円以下の罰金が使用者に科される可能性があります。


その罰則が科される可能性がある使用者側には、事業主や経営者だけではなく、会社から一定の権限を与えられている中間管理職が含まれる場合もあります。

手と箱

まとめ


法的には、36協定の締結が必要ないことも考えられます。例えば、次の記載が、雇用契約書に明記されている会社があったとします。


・1日の勤務時間は7時間30分 ・完全週休2日制



毎日欠かさず30分の残業をさせたとしても、1日の労働時間は8時間です。
さらに、完全週休2日制が守られているなら、1週間の勤務時間は40時間。
法定労働時間を超えてはいないので、労働基準法違反となることはないのです。


しかし、コロナ騒ぎが落ち着きを見せ始めたためか物量は増加傾向にあり、トラックドライバー不足は再び深刻な状況となりつつあります。その上、トラックドライバーにとって荷待ち時間はつきものです。


荷待ち時間が労働時間・休憩時間のいずれに当たるかについては、明確な線引きが難しい場合が多く、トラックドライバーの労働時間は総じて長時間となりがちです。したがって、トラックドライバーに36協定締結の必要性がないことは「まずない」と考えておいた方がいいでしょう。