物流業界では2024年に向けて多くの会社が試運転開始済み

“物流業界における2024年問題”

のタイムリミットは、目前に迫って来ました。さすがに業界内の多くの会社は、すでに動き始めているようです。


もしかするとトラックドライバーに対しての説明では、「2024年問題」などの表現を使っていないかも知れません。それでも、「月平均の時間外労働を80時間以内にしてくれ」などと言われたことはないでしょうか。実はこれが、2024年に向けての準備なのです。今回は、物流業界の2024年問題の具体的内容を詳しく説明します。

物流業界の2024年問題 詳細


会社側が「80時間以内」を言い始めたのは、物流業界に限ればトラックドライバーなど自動車運転業務を担う人たちに対して、労働基準法第140条により規制がかかるようになるからです。

規制がかかり始めるのは、2024年4月1日以降。それにより物流業界の受ける影響の大きさが、非常に大きいと予想されていることから、“物流業界における2024年問題”と言われているのです。

労働基準法第144条

規制の具体的内容は、法定休日の労働時間を含めないドライバーの時間外労働時間を最大でも960時間以内/年に、この日から収めなければならないというものです。これを容易にクリアできそうでしょうか。

また、「80時間以内」を言うようになったのは、2019年4月1日くらいからだと思います。実はこのときから、改正労働基準法が大企業に対して施行され始めているのです。1年後の2020年4月1日からは、中小企業へも適用が開始されました。しかも、960時間以内/年よりさらに厳しい720時間/年などという規制(一般則)です。


これらのときに、同時適用されない業務や業界も一部にはありました。いわゆる猶予期間が与えられたのが、物流業界ならドライバーです。トラックドライバーをはじめとする、自動車運転業務を日常の主な業務としている労働者に与えられた猶予期間は、2024年3月31日までの5年間。ということは、この日までドライバーに対して労働基準法によりかかる時間外労働の規制は、改正労働基準法施行前と同じものでしかないのです。


執行猶予期間

改正労働基準法施行前の労働基準法では、時間外労働時間の上限が定められていませんでした。36(サブロク)協定の締結があれば、上限(法定労働時間)(1日8時間週40時間)+時間外労働時間(月45時間年360時間)を超えた時間外労働をドライバーにさせたところで、厚生労働大臣の告示による行政指導にとどまっていたのです。
また、さらに特別条項付きの36協定の締結があれば年間6か月まではこの上限を超え、青天井の時間外労働をさせることも可能でした。

改善基準告示


2024年3月31日までこの状況が続くということは、「それまで労働時間は青天井」というわけでもありません。トラックドライバーの拘束時間などに対しては、改善基準告示が役所から出されます。ただ、労働基準法のように、法的強制力がはたらくことはありません。改善基準告示に違反しても、労働基準監督署からの是正指導が行われるのみ。確信犯的に是正指導を無視する物流業者も、少なくないのが実情でした。


それでも、この状況を放置しておけば、トラックドライバーたちの健康を損ねる状況の改善も放置されることになります。そのため年を追うごとに、改善基準告示が厳しくされてきました。違反点数が累積することで、運送業の許可が取り消されることも現在ではありえます。


24年3月31日までは現行の改善基準告示順守しながら、翌日からはそれに加えて960時間以内/年の順守もできるように、物流企業は今から備えておくべきでしょう。


グラフと指

2024年問題に物流企業が敏感になるのは


2024年4月1日からはドライバーの時間外労働時間合計が960時間/年を超えてしまうと、会社側は“6か月以下の懲役、または、30万円以下の罰金”という罰則を科される可能性が生じます(労働基準法119条)。


会社側が「80時間以内にしてくれ」と言うようになったのは、この法的強制力によるところが大きいのです。


しかし、年間の時間外労働時間数合計が960時間以内であれば問題ないのです。「80時間」はあくまでも、ひと月あたりの平均(960時間÷12か月=80時間)であり、目安にしか過ぎません。法定休日の労働時間を含めない時間外労働が100時間になってしまった月があったとしても、それ以外の月で80時間を下回り、1年合計で960時間以内に調整すれば法律上は問題ありません。


ただ、ひと月の出勤日数が20日の場合、時間外労働80時間/月は労働行政上、過労死ラインと考えられています。法律上は問題なくても、自社トラックドライバーの健康を考えるのなら、80時間/月を超えないように会社側はするのが望ましいでしょう。


ひと月の出勤日数が20日の場合

会社側が「80時間以内にしてくれ」と現在トラックドライバーたちに言う背景には、これらのことがあるのです。つまり、24年4月1日以降に備えての予行演習的意味合いが強いと言えるでしょう。ドライバーには“80時間/月”を目安として働いてもらい、その条件下でも会社運営に支障を来さないような方法論を会社側が探っている途上であることがうかがえます。


方法論構築に成功したときには、会社は法的に問題なく運営された上に、トラックドライバーの健康維持にも貢献できます。会社側の現在の言動は、トラックドライバーの立場からも、むしろ歓迎すべきではないでしょうか。


ドライバー特例と一般則

ドライバーには特例が、それ以外には一般則が適用


なお、ドライバー以外の事務職・技能職・整備職・倉庫内作業職・運行管理者などは、同じ物流企業に勤めていたとしても、ドライバーと同じ特例の“960時間以内/年”が適用されないことについては注意が必要です。事務職員たちには、ほとんどの一般企業従業員に適用される一般則が適用されます。


以下、その一般則を箇条書きにしました。24年4月1日以降もこれらすべてが、ドライバーには適用されることはありません。


(1)法定休日の労働を含めない時間外労働は、合計720時間/年以下

(2)   〃    含めた時間外労働は、合計100時間未満/月

(3)   〃    含めない45時間超/月の時間外労働ができる月は、6回以下/年

(4)   〃    含めた時間外労働時間の2か月平均値・3か月平均値・4か月平均値・5か月平均値・6か月平均値は、すべて80時間以内


最大の960時間とするには


24年4月1日以降、ドライバーに対して年間最大960時間以内という上限規制を適用するには、労使間での特別条項付き36協定の締結が不可欠です。 特別条項なしの36協定締結では、45時間/月、360時間/年という改正労働基準法の一般則が上限としている法定休日の労働を含まない時間外労働が、上限として適用されます。


さらに特別条項なしの36協定締結もない場合には、法定休日を与え、法定労働時間を超えない範囲内でしか働いてもらうことしかできません。これらに反したときにも“6か月以下の懲役、または、30万円以下の罰金”という罰則を科される可能性があります。

まとめ


“時間外労働960時間以内/年”という規制を“24年4月1日以降、無事にクリアできそうでしょうか。


また、この記事内には、多少難しいことばや表現があったかも知れません。それらについては、次回以降の記事で説明いたします。