喫緊の課題”物流業界の2024年問題”って?
“物流業界の2024年問題”と“働き方改革”
一方、テレビのニュースなどでは、“働き方改革”というフレーズを耳にすることが多いのではないでしょうか。これら2つのフレーズですが、実はまったくの無関係ではありません。国が働き方改革を推し進めるために、物流業界の2024年問題が生じてきました。働き方改革が原因で、物流業界の2024年問題が結果という関係です。 物流業界では、2024年問題を喫緊に解決すべき課題として捉えています。物流業界全体が、ふるいに掛けられると言っても過言ではないのです。とくに中小零細の物流企業なら、消滅の可能性も否定できません。その上、業界全体の再編も予想されていることから、大手物流企業にも影響が及ぶことは避けられないでしょう。 しかし、「何で国がそんなはた迷惑なことを」と考えるは、お門違いです。国が働き方改革に力を入れるのには、もちろん理由があります。働き方改革とは
物流業界の2024年問題が生じるそもそもの原因となった働き方改革は、2016年当時の安倍晋三首相肝いりの成長戦略です。日本の労働生産性アップが主な目的で、決して物流業界の改善だけを狙ったものではありません。日本の人口が、年々減少していることについてはご存じでしょう。このままでは国力が低下することは、火を見るより明らかです。 その危機感から、働き方改革が始められました。従って、働き方改革関連法は、特定の業界だけを対象とはしていません。2024年問題は物流業界にのみ存在するのではなく、建設業界や医療業界(医師)など、同様の問題を抱えるこれらほかの業界でも喫緊の課題とされています。 その安倍首相は16年8月3日発足の第3次安倍第2次改造内閣で、それまでにはなかった働き方改革担当大臣という大臣を置きます。任命されたのは、衆議院議員の加藤勝信氏。そして、18年6月29日には、働き方改革関連法(正式名称“働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律”)が国会で成立します。働き方改革実現のため、労働に関する各種法律を改正するための法律です。 1947年9月1日施行の労働基準法が改正されたことは、これまでに何度もあります。働き方改革関連法は、その労働基準法に時間外労働の上限規制という71年間で初めての大改革をもたらせました。働き方改革関連法
さらに、これら4つの中でも、物流業界に及ぼす影響がとくに大きいと考えられているのが(A)です。ドライバーの残業過多がこれまで慢性的に続き、それがほぼ当たり前とされてきた物流業界を大きく変えなければならないのです。 また、「(B)~(D)への対応により企業体力が落ちているところに(A)」ということもあるでしょう。物流業界への影響が非常に大きいことから、(A)により生じうる問題が物流業界の2024年問題と言われているのです。 しかも、この規制に違反する事業者に対してへの罰則規定もあります。19年4月1日から大企業に対して施行されている働き方改革関連法では、“6か月以下の懲役”、または、“30万円以下の罰金”を科すことが定められているのです。罰金では済まず、懲役、つまり、刑務所に拘置される可能性もあるとなれば、「順守しなければ!」と考えるのが普通ではないでしょうか。20年4月1日からは多数の中小企業にも、(A)の上限規制適用が始められました。(A)時間外労働上限規制の設定(自動車運転業務への適用は24年4月1日以降) (B)同一労働同一賃金の導入(パートタイム・有期雇用労働法→大企業に対しては20年4月1日から、中小企業に対しては21年4月1日から適用 労働者派遣法→20年4月1日から全企業に適用) (C)残業割増賃金率が25%から50%へアップ(大企業は10年4月1日から、中小企業は23年4月1日から適用) (D)年5日の年休取得義務化(19年4月1日から全企業に適用)
2024年までの猶予期間は5年
しかし、自動車運転業務への適用はまだ行われてはいません。24年3月31日まで、19年4月1日から数えて5年間の猶予期間が与えられたのです。自動車運転業務を行うトラックドライバー・バス運転手・タクシードライバーなどにおいては、時間外労働が常態化しています。その早期改善は、難しいと判断されたのです。 なお、建設業界や医療業界(医師)など、時間外労働が当たり前のようになっているほかの業界でも、同じく5年の猶予期間が与えられました。しかし、24年4月1日以降の違反については、罰則を科される可能性があります。 早期の対応が、各業界では必要です。物流業界の2024年問題をクリアできないと…
(1) 働いている物流企業に対してドライバーから提供される総労働量は、(A)により低下せざるを得ません。その物流企業の売上ダウンは必至です。かといって、とくにトラックドライバーの長時間勤務はよく知られています。トラックドライバーになりたがる人は、もともと少ないのです。早期にトラックドライバーを増やしてそれを補うのには、難しい状況に各物流企業はあります。
(2) (A)の影響は、物流企業で働くドライバーの収入にも及びます。これまで働いてくれていたドライバーは、長時間労働で稼ぐことを前提として考えています。雇用する側の企業の収益が減ったからと給与体系を改善しないでいると、ドライバーの収入は減ります。すると、ドライバーの不満がうっせきします。会社のみならず、業界そのものから去って行くことを彼らが考えても不思議ではありません。
(3) そして、これまで頼りにしていたベテランドライバーの離職は、さらなる売上ダウンにつながります。この流れは負のスパイラルとなり、いずれは会社をたたむしかなくなる可能性も出てくるでしょう。そこで物流企業の経営者は、運送料の値上げを考えます。負のスパイラルの入り口となる売上や収益の減少を補おうとするのです。
(4) しかし、それによりマイナスの影響を被る荷主の存在を忘れてはいけません。これまで運送料の安さに魅力を感じていた荷主が、今後も同じ物流会社を使い続けてくれるという保証はどこにもないのです。