物流業界は社会に欠かせない役割を担っています。インターネット社会の普及を背景に取引の多様化やスポットでの取引などが増えています。このような状況下では取引内容が明確に分かる書面があると事業運営がスムーズです。国土交通省はトラック運送事業者が事業を円滑、かつ迅速に行えるよう書面化推進を取り組んでいます。本稿では書面化と運送取引にかかる書面についてご紹介します。
トラック運送業の書面化推進とは?
トラック運送業界は古くから口頭で契約することがあります。この場合、運賃や支払方法、責任などが曖昧になる傾向にあります。これにより附帯業務が増えたり、思ったほどの収益が得られなかったりするケースがあります。このようなトラック運送業界の問題を解決するために運送状や運送引受書などの書面化推進が行われています。書面化を行うことで契約内容が明確になり、荷主や運送の委託先と良好な関係を築くことが期待されます。書面化が推進されるようになった理由
インターネット社会の進化などによって物流のニーズは日々増しています。しかしながらトラック運送業者の多くは中小事業者であり、契約内容の明確化や値上げ交渉などが十分にできていないのが現状です。政府はトラック業界の労働環境を良くするため、書面化を行うことで以下の問題を解決しようと考えています。
- 契約にない附帯業務を回避する
- 現場のトラブルなど事後的に理解できる
- 附帯業務の内容を明確化し適正な料金を得る
- 過労運転等のコンプライアンス違反を防止する
- また書面化だけでなくトラック運送業の人手不足を改善しようと、生産性の向上や労働環境の改善に取り組む「ホワイト物流」推進運動というものがあります。
国土交通省のガイドライン
運送状及び運送引受書は荷主とトラック事業者の間でのトラブルを予防するために作成されます。保存期間は1年です。しかし基本契約や作業指示書、発注書などに必要な記載項目があれば、書面を新たに作成や交付する必要はありません。
運送状及び運送引受書の概要
運送状及び運送引受書の概要は次の通りです。依頼側と受託側の双方で書面を交わします。
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- 依頼側:「運送状」を作成し、トラック運送事業者に提出
- 受託側:「運送引受書」を作成し、運送の委託者に交付
またトラック運送事業者は運送状の内容を「運行指示書」に反映する必要があります。
運送引受書の交付相手
運送引受書の交付は直接委託を受けた者に対して交付します。そのため荷主だけでなく、元請の運送事業者なども含まれます。
効率的な運送引受書の交付方法
書面の交付には手間と印紙税がかかります。しかし運送引受書の場合、電子メールやFAXなどで交付することが可能なため、印紙税の課税がありません。時間と金額を効率的に行うことができます。
運送引受書の交付のタイミング
運送状及び運送引受書は双方間でのトラブルを未然に防ぐことに意味があります。そのため必ず運送実施の前に引受書の交付を行う必要があります。また運送の業務内容や報酬などを事前に決めておくことで、トラック業界の適正な取引や生産性向上が見込まれます。
運送状と運送引受書について
記載が必要な項目
国土交通省が示すガイドラインで記載が必要な項目は次の通りです。なおこれらは必要最低限の項目です。これらに加えて業務に必要な項目を付け加えることも可能です。
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- 貨物の品名、重量、個数等
- 運送日時(積込み開始日時や場所、取卸し終了日時や場所)
- 運送の扱種別
- 運賃、燃料サーチャージ、料金(積込料及び取卸料、待機時間料、附帯業務料等)、有料道路利用料、立替金その他の費用
- 荷送人及び荷受人の連絡先等
- 運送状の作成年月日等
- 高価品については、貨物の種類及び価額
- 積込み又は取卸し作業の委託の有無
- 附帯業務の委託
- 運送保険加入の委託の有無
- 支払方法、支払期日
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当然ではありますが以上の項目はコンプライアンスを遵守する必要があります。ドライバーに過度な負担をかける拘束時間などを要求できません。
運送状の作成方法
上記の必要最低限な項目が記載されていれば様式は問いません。しかし事前にテンプレートを作成しておくと、取引時の手間が削減されます。全日本トラック協会の『書面化推進ガイドライン」における運送状、運送引受書の基本様式』にて基本様式をダウンロードすることが可能です。
よくある質問事項
国土交通省が発表する『トラック運送業における書面化推進ガイドライン』によくある質問が記載されています。ここでは一部、抜粋してご紹介します。
Q:書面化を、今進めることでどのような効果が期待されるのか
A:安全運行の阻害行為の回避や荷待ち時間を削減するとともに、運送や附帯業務に伴う適正な対価の収受について効果が期待されます。また、消費税の転嫁や燃料サーチャージの導入についても効果が期待されます。
Q:ガイドラインの必要記載事項では足りないのではないか
A:本ガイドラインで示す「必要記載事項」は、必要最小限の項目としております。各社において、業務上必要な記載項目(任意記載項目)を追加するなどご活用願います。
Q:ガイドライン掲載の基本様式は標準様式なのか
A:ガイドラインの様式は、どのような事業者においても共通に使用できるものですので予めメール等に入力しておくと便利です。なお、必要記載事項が網羅されていれば基本様式以外のものであっても問題なく、これをイメージしたメールの書式もP17に追記しております。
まとめ
ここまで国土交通省が実施している書面化推進と運送引受書についてご紹介してきました。契約内容が明確に記載された書面を用いることで、適正な取引と生産性の向上が期待できます。書面化は初めこそ様式作成などに手間はかかりますが、今後も発展していく物流業界を考えると必要な取り組みです。
ペンネーム:陣内智徳